Friday 17 April 2015

Sutton House (サトン・ハウス) -1-

今回から2階にわたって、ロンドンはイーストエンドにあるナショナル・トラストの建造物、Sutton House(サトン・ハウス、サットン・ハウスともカナ表記される)のイメージを。

この屋敷はチューダー期、1535年に、ヘンリー8世の筆頭秘書官だったSir Ralph Sadleir(ラルフ・サドラー卿)によって建てられた、当時珍しいレンガ造りの住居。 ロンドンの街のまっただ中、近頃のトレンドの中心イースト・エンドのHackney(ハックニー)に未だに現存している。 
その後様々な商人の屋敷、船の船長の屋敷、ユグノー居住者の絹製造元の住宅件工房、男子学校、聖職者の住居などなどに転用されてきた。 1930年代にナショナル・トラストが購入したものの、戦時の消防隊施設に使用されたり、戦後は科学技術関連の組合に貸し出されていた。この組合が退出した後の80年代には、不況下のロンドンで、顧みられることなく荒廃し、スクワッター(不法住人)に占拠されて、ライヴ・ハウスになったり、サブ・カルチャーのセンターにもなっていた。 スクワッターが立ち退かされた後も、住人のいなくなった建物は一段と荒廃の一途をたどるが、1987年にサトン・ハウス救済キャンペーンが始まり、1993年に修復が完了、1994年から全面的に一般公開されている。

Sutton House, Hackney, London,
その外観。
チューダー的な左右にウィングのある「コ」字型の建物なのだけれど、
(英語では「コ」はないので、H型と称される)、
後年左右に分割されて、別のオーナーのものとなる。
18世紀に左のウィング側のオーナーが、
ファサードを当時のトレンド、スタッコ塗りにしてしまったので、
なんとも奇妙な外観になっている。
入口も左右二箇所に設けられたが、元々は左側のみ。
現在はオリジナルの左側が入口。
当時としては豪華な屋敷だけれど、すこぶる賢明なラルフ卿は、
ウルジー枢機卿のように、ヘンリー8世の反感を買うほどの
大屋敷にはしなかったのだ・・・と言われている。

Sutton House, Hackney, London,
入口を入ってすぐ左側、つまり、スタッコ塗りの方のウィングの部屋。
現在はカフェ・エリアに使われているが、
外観同様に18世紀ジョージアン期のインテリアに修復されている。

Sutton House, Hackney, London,
西の果てのウチから、東のハックニーに、遠路(?)たどり着いて、
まずはお茶で休憩。

Sutton House, Hackney, London,
しかし、ここの見ものは、右側のウィング。

Sutton House, Hackney, London,
21世紀のロンドンのまっただ中に現存する・・・、
16世紀チューダー朝のオーク材パネルの部屋。

Sutton House, Hackney, London,
そしてオリジナルの暖炉。

Sutton House, Hackney, London,
このパターンは、
Linen Fold(リネン・フォルド=リネン襞)と呼ばれるもの。

Sutton House, Hackney, London,
修復の段階で、現存するオーク材パネルの下に、
同様のリネン・フォルド柄に描かれた壁が発見された。
建造当初は、パネリングではなくて、
壁画装飾されていて、後年、一段と裕福になった折に、
オーク材パネルを付け加えたたのではないかと考えられている。

Sutton House, Hackney, London,
暖炉の鋳物のバックプレートはオリジナルのもので、
ラルフ・サドラー卿の頭文字、R.Sが記されている。

Sutton House, Hackney, London,
現在廊下にあたる部分から、中庭に面した窓。
同時代のハンプトン・コートを思わせる。
ところで、ラルフ卿、このハックニーの自宅から、
西の果て、ヘンリー8世のハンプトン・コート・パレスに
通勤してたのかなぁ? 現代でもそれ、遠いと思う(笑)。
ちなみにここは彼のロンドンの家で、
本領地はヘレフォードシャーにあったのだそう。

Sutton House, Hackney, London,
階段周辺に壁画が発見された。

Sutton House, Hackney, London,
イギリスではチューダー様式。
とはいうものの、ヨーロッパ・スタンダードでいえば、
ルネッサンス様式の、典型も、典型。

Sutton House, Hackney, London,
教科書のように正統なルネッサンス様式の装飾。

Sutton House, Hackney, London,
部屋の入口の横に描かれた、サポーターも、
職場・ハンプトンコートを連想させる。

Sutton House, Hackney, London,
この部屋は、先ほどのリネン・フォルド・パネリングの部屋の、上階にあたる。

Sutton House, Hackney, London,
下階よりはシンプルなパネリングに、
床にはペインティングで装飾されている。
まだカーペットななかった時代の、床装飾の一例。

Sutton House, Hackney, London,
この部屋の暖炉のバックパネルには、J.M. 1550 と記されている。
これは誰を意味するのかは、調べがつかなかった。
ラルフ卿は長寿で、メアリー女王の反動政治期も、
中央政治からは引退したものの、ヘレフォードシャーの所領は維持し、
エリザベス1世君臨後は中央政治に復活した。
1550年はちょうどこのメアリー女王の治世下、
ヘレフォードシャーに蟄居していた時期なので、
それと関連しているのかも?

Sutton House, Hackney, London,
その隣の部屋、ちょうど両ウイングの真ん中に当たる上階部分が、
Great Hall(大広間)。

Sutton House, Hackney, London,
そのサドラー卿・・・かと思ったら、
孫で同名のラルフ・サドラーの肖像画説が真相の様。
<資料はこのページ

Sutton House, Hackney, London,
ホールの反対側の壁にかかるのは、17世紀なカップルの肖像画。
子孫のSir Edwyn Sadleir <資料はこのページ>と、
奥方のLady Sadleir<資料はこのページ>。
Mary Beale(メアリー・ビール)という、イギリスで初めて記録に残る、
プロフェッショナルの女性画家の手になるもの。

Sutton House, Hackney, London,
グレート・ホールの暖炉。

Sutton House, Hackney, London,
16世紀建造当初のグレート・ホールの想像図。
床はタイル張りで、カーペットの代わりに
イグサ編みのマットレスが敷かれたり、
藁を床に敷いて保温・消臭・汚れ防止にしていた。

Sutton House, Hackney, London,
元々はこんな風であったという、イラスト。

Sutton House, Hackney, London,
建造当初の地域のイメージ・ジオラマ。


次回もサトン・ハウスから、後年のスタイルの部屋を。


Sutton House (サトン・ハウス)
2 and 4 Homerton High Street, Hackney, London, E9 6JQ

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