Monday, 13 April 2015

The Limnerslease (リムナースリース)-ワッツの家

前回に引き続き、G.F.Watts(ワッツ)のギャラリー、ギルフォード郊外コンプトン村にある、Watts Gallery(ワッツ・ギャラリー)関連の近況を。

ワッツと、後年の妻で自身もアーティスト/デザイナーであるMary Seton Watts(メアリー・シートン・ワッツ)が、1891年にコンプトン村に土地を購入した。
当時彼らは、ロンドンのケンジントン地区に住んでいたが、高齢のワッツの健康のため、空気の清浄な田舎に、秋冬用の別荘を建てるというのが当初の目的だったそうだ(当時ロンドンでは、秋冬の雨がちな天候が、スモッグを悪化させていた)。 その土地に、アーツ・アンド・クラフト様式の建築家、Ernest George(アーネスト・ジョージ)設計の家が完成して、Limnerslease(リムナースリース)と名付けられた。これは、Limners(ラテン語でアーティスト) + leasen(古英語で収穫)に由来する、彼らの造語なのだそう。
やがて、ここの居心地がいいため、次第にここが本宅となっていった。 1904年にその自宅から、村道の向かい数百m離れた土地に、メアリーがワッツ・ギャラリーを、また、その先にはワッツ・チャペルを完成させるが、それを待っていたかのように、2ヶ月後にワッツは他界する。
ワッツより33歳若年のメアリーは、1938年までこの「リムナースリース」に住んでいるが、彼女の死後、家は3つのセクションに分割されて、別々のオーナーに売却される。 その後、建築家の中央部のオーナーが片側のウィングを買い取り、2つの家になった状態で、2013年まで個人住宅となっていた。
ワッツ・ギャラリーが、大修復プロジェクトを完成させ、2011年に新装オープンした後の2013年に、それぞれのオーナーの事情で、まったく偶然にこの2つのセクションの「リムナースリース」が売りに出された。 これは、分割売却されて以来初めてのことだった。ワッツ・ギャラリーとしては、このまたとないチャンスを逃すわけにはいかない。なんとしてもこの「リムナースリース」全体を買い取り、一つの状態に復元し一般公開するとともに、アート・文化センターとして活用したい。そこでワッツ・ギャラリー修復の「Hope Project(ホープ・プロジェクト)」にひき続いて、再び新たなプロジェクト「Limnerslease & Great Studio Project (リムナースリース&大スタジオ・プロジェクト)」が展開される。
中央と右側ウィングに、ワッツとメアリーの住居を再現し、左側ウィングに、本来あったワッツとメアリーのスタジオを再現すると同時に、アーツ・アンド・クラフトやアートを通じての社会福祉運動の拠点に活用することが最終目的。
「Hope Project(ホープ・プロジェクト)」を上回る、総額5000,000(5ミリオン=日本語で500万・・・だっけ?)ポンドのプロジェクトに、2014年に再びロタリー・ファンドより2.4ミリオンポンドの資金援助を受け、また、チャールズ皇太子を始めとする支援も受けて、現在もキャンペーン・アピール中。
実際の施工はすでに始まっていて、計画では今年の夏の完成が目標だったが、どうやら、10月にずれ込む様子。 工事中ではあるものの、火・金・土曜日の12時・2時にガイドツアーがすでに始められている。<英文詳細とツアー予約はこのページから>

私はたまたま火曜日に納品に訪れて、担当者からこの話を聞いて、空きのあった2時のツアーに参加させてもらったのだった。


Limnerslease - Watts' home
ギャラリーのヴィジターセンター入口に集合して、
ギャラリー・スタッフに引率されて、村道を渡って、
小道を歩くこと7-8分で、リムナースリースが木立の中に現れる。

Limnerslease - Watts' home
今年後半の全館オープンに向けて、
現在は左ウィングの、上下階スタジオを修復中。

Limnerslease - Watts' home
入口を入ったところの玄関ホール。
暖炉が設えられていて、ホールといっても
居心地のいい空間になっている。

Limnerslease - Watts' home
上階への階段からホールを見たところ。

Limnerslease - Watts' home
ホールの天井のプラスター・ワークは、メアリーの手になるもの。
ケルトを始めとして、世界各地の宗教・神話のモチーフが、取り上げられている。
彼らの、「宗教」という形式を超越した神秘思想が垣間見られるよう。

Limnerslease - Watts' home
その先のリヴィングルームから、玄関ホールを見たところ。

Limnerslease - Watts' home
この「コテコテ」の木彫パネルも、メアリーのデザイン?
かと思ったら、これは彼女が、たまたまリバティーで、
見つけて購入したものなのだそう。

Limnerslease - Watts' home
そのリヴィングルームをホール側から見たところ。
左のalcove(アルコーヴ=壁龕)部分には、メアリー制作の
ワッツ・チャペルと同様の手法の装飾レリーフで飾られていたそうだが、
後年個人住宅だった時期に取り除かれたまま、修復の見込みが立っていない。

Limnerslease - Watts' home
これが当時の様子。

Limnerslease - Watts' home
この「お気に入り」のスペースで寛ぐ、メアリーとワッツ。

Limnerslease - Watts' home

Limnerslease - Watts' home
カーペットは、メアリーのデザインだった、というので、
多分当時彼女がデザインで関わっていた、
カーペット会社Alexander Morton & Coと関連していると思われる・・・、
(このあたり、ガイドさんの話をちゃんと聞いてなかった)
現在も活動中の関連カーペット工場がオリジナルパターンを保存していて、
それを使ってカーペットを再現、寄贈してくれたのだそう。

Limnerslease - Watts' home
この部屋の天井も、メアリーのプラスターワークが施されていて、
さまざまなシンボリズム・アレゴリーでうめられている。

Limnerslease - Watts' home
その隣のダイニングルーム。

Limnerslease - Watts' home
どの部屋も、オリジナルの家具は、
大半が個人住宅だった時期に失われているので、
当時の写真を元に、できるだけ近い様式のものが集められた。

Limnerslease - Watts' home
暖炉の上に飾られているのは、メアリーの興したコンプトン焼。
リバティーを中心に販売されていた。

Limnerslease - Watts' home
玄関ホールの階段を上がった上階のランディング。

Limnerslease - Watts' home
展示されている写真は、メアリーがワッツ・チャペルの
壁面レリーフ装飾を制作しているところ。
3-4人のよりすぐったアシスタントを使っていたそうだけれど、
すべて基本的に自分の手で制作・設置したそう。
きっと彼女も「シュヴァル症候群」の人だったに違いない(笑)。

Limnerslease - Watts' home
上階ランディングには、1階よりシンプルな暖炉が設置されている。

Limnerslease - Watts' home
2階の寝室。
当時のミドルクラス以上の家庭では、「家庭内別居」でなくても、
夫婦はそれぞれの寝室を持っていることが多かったそうだが、
ワッツとメアリーの夫妻は、共同寝室で暮らしていた。
家具が明らかに20世紀以降のデザインになっている。
ちなみに、これらもオリジナルではなく、
近い様式のものが集められたものかと。

Limnerslease - Watts' home
この衝立のレザー・ワークは、彼らの養女になったリリーという女性が制作したもの・・・、
とガイドさんが話してたと思う。
何しろ写真を撮りつつ、話をかいつまんで聞いているので、
もしかしたら、間違ってるかも。

Limnerslease - Watts' home
椅子の背に収められたレリーフは、
明らかにメアリーのデザインの、ケルティック・リヴァイヴァル・スタイル。

最後にもう一度、前回貼ったプロジェクトのパネルを。

Watts Gallery - Compton, Guildford

The Limnerslease Project <英文資料


ここのプロジェクトでも解るように、バブル経済再びの危険・・・とか何とか称されながらも、イギリスの(特にロンドンの)経済の強さに、動かす金額の大きさには驚かされる。 と、同時に、文化や建造物保存に対する並々ならない熱意も、多分・・・世界最強かも。 国立博物館の(寄付は募っているけれど、基本的に)入場無料のシステムといい、UKの懐の深さというか、文化的な「強さ」をつくづく感じる。 私が、ブリティシュ(英国国籍)を選んだのも、きっとこの、現代のコンスタンティノープルともいえる、文化の深さ・強さが最大の要因だったんだなー、と、思い返してみたのだった。



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