Saturday, 11 December 2010

Tate Britain(テート・ブリテン美術館)より、19世紀絵画のいろいろ

前回までラファエル前派の絵画をLondon,テート・ブリテン美術館からセレクションしていたのだが、今回はそこからもう少し広がって、19世紀のイギリス絵画を私の勝手なチョイスで・・・。

ラファエル前派はそもそも、当時19世紀イギリスの絵画の主流だったRoyal Academy(ロイヤル・アカデミー)の型に嵌った絵画様式に対するアンチ・テーゼとして生まれたもの。
とはいうものの、19世紀のロイヤルアカデミー派の画家達も様式・手法は移り変わっていくわけで・・・どのような様式がロイヤルアカデミー派とは、明確にいえないものがある。単純にどこを展示対象にするか(つまりマーケティング対象においているか・・・)という話のような・・・。
いずれにせよ、19世紀の絵画は現代に比べて高度に装飾的。純粋に「装飾美術としての絵画」が存在しえた、最初で最後の時代とも言える。(18世紀はまだ記録としての「肖像画」や「風景画」の傾向強し)
一方、この時代には「象徴主義」が絵画に深く入り込んできて、「神秘」「幻視」「スピリチュアル」なテーマやコンセプトが、描かれた対象の後ろに秘められている作品も多い。
様式・コンセプトにはあまりこだわらず、ギャラリーの中から、私的フィルターに引っかかってきたものをピックアップしてみた。(テート・ブリテンの所有する、この時期最大の画家はターナーなのだが・・・あまりに膨大なので、これはまたいつか改めて・・・。)

Satan Smiting Job with Sore Boils, William Blake, about 1826
Satan Smiting Job with Sore Boils, William Blake
「サタンに皮膚病を与えられるヨブ」 ウィリアム・ブレイク 1826年

18世紀から19世紀初頭にかけて活動した「幻視者」ブレイクの作品は、その時代背景からはあまりにも特異で、理解・評価されないうちに没したが、19世紀後半の「象徴派」の絵画は彼の作品の影響に負うところが大きい。
彼の作品はは時代を超えて、現代の「幻視者達」にもコミュニケートし続ける。世俗的成功とは縁がなかったと伝えられているが、そのヴィジョンとそれを具現化する才能が、彼にとっては最大の「財産」であり「成功」だったのだろう・・・。


Ariel on a Bat's back, Henry Singleton, 1819
Ariel on a Bat's back, Henry Singleton 「蝙蝠の背に乗るアリエル」 ヘンリー・シングルトン 1819年

ヘンリー・シングルトンは18世紀から19世紀初頭に活動した画家で、主に肖像画家。よくも悪くも「職業画家」で、他の作品は全く目に留まらなかったのだが(失礼・・・Mr.Singleton)、このシェイクスピアの「嵐」の中の空気の精アリエルを描いた作品が、妙に意識に貼りついてはなれない(笑)。


Chatterton, by Henry Wallis 1856
The Death of Chatterton, Henry Wallis  「チャタートンの死」 ヘンリー・ウォリス 1856年

ヘンリー・ウォリスはラファエル前派の画家と見なされたり、ロイヤルアカデミーで活動したので「別物」と見なされたり・・・「ロマン派」と見なしていいだろう、特にこの作品などは・・・。
トーマス・チャタートンは才能と野心を持ちながら、17歳で自殺する18世紀の詩人。「ロマン主義」の格好のアイドル・・・。テーマの背景はともかく、これも一度見たら忘れられない作品。


Pegwell Bay, Kent - a Recollection of October 5th 1858, William Dyce, 1858-60
Pegwell Bay, Kent - a Recollection of October 5th 1858  William Dyce 
「ペグウェル・ベイ、ケント-1858年10月5日の回想」 ウィリアム・ダイス 1858-60年

ウィリアム・ダイスはスコットランドの画家だが、ケントの海岸を訪れた折に描いている。
この前、Southend-on-seaで海の写真を撮ってきたこともあり、この作品のディーティールに興味津々。黄昏ていく光が海に反射して、空気まで感じられるような・・・。
60x90センチ程度で、大きな作品ではないのだが、小さく切り取った部分だけでも絵になる・・・。

Part of Pegwell Bay, Kent, William Dyce
上記絵画ディーティール。

Part of Pegwell Bay, Kent, William Dyce
上記絵画ディーティール。

Part of Pegwell Bay, Kent, William Dyce
上記絵画ディーティール。

The All-Pervading, George Frederic Watts, 1887-90
The All-Pervading, George Frederic Watts
「あまねく満たす者」ジョージ・フレデリック・ワッツ 1887-90年

ラファエル前派とも、アーツ・アンド・クラフトとも関連の深い象徴主義の画家、ワッツの作品は、まさしく「宇宙意識」を描いたかのよう・・・。


Hope, George Frederic Watts, 1886
Hope, George Frederic Watts 「希望」 ジョージ・フレデリック・ワッツ 1886年

これもまた、かすかな調べの波動の中に、希望を紡ぎ込める宇宙的存在と思えるのだが・・・。
彼の作品の多くはロンドン郊外サリー州、ギルドフォード近くのコンプトン村にあるWatts Gallery(ウォッツ・ギャラリー)に収蔵されている。肖像画家・彫刻家としての評価が高く、彼の象徴主義的絵画は当時の社会には、やや不明瞭で難解だったためか、あまり評価されることはなかったそうだ。それが幸いしてか、そのもっとも象徴主義的な作品の多くが、彼自身のアトリエ・住居であった、ウォッツ・ギャラリーに残されている。
2011年春まで、大改装工事のため閉館しているが、以前訪れた時に撮った写真があるので、またいつか標本箱に詰め込んでみよう。
余談だが・・・大改装閉館の以前4年間に渡り、ここのミュージアムショップにKotomiジュエリーを納品してきた、私にとっては思い出の美術館。現在は引退した前館長さんに「WattsやMary(ウォッツの後年の妻)が生きていたら、きっとあなたのジュエリーを欲しがったはず。」と言ってもらえて、感激した思い出がある。


A Sleeping Girl, Albert Moore, about 1875
A Sleeping Girl, Albert Moore 「眠る少女」 アルバート・ムーア 1875年頃

象徴的な絵画からうってかわって、ムーアの華麗なる装飾的な作品へ・・・。光に透かされた大理石のような輝きと、職人技ともいえる衣装の襞が彼の絵画の特徴。「物質的」な美も極められると「神々しく」さえある。
同じくムーアの作品・・・。


Blossoms, Albert Moore, 1881
Blossoms, Albert Moore 「華 」アルバート・ムーア 1881年


The Bath of Psyche, Frederic Leighton, 1890
The Bath of Psyche, Frederic Leighton 「プシケーの水浴」 フレデリック・レイトン 1890年

19世紀イギリス画家の中でも、最も「社会的成功」を成し遂げた画家ともいえるレイトン。ムーアにもまして「工芸的装飾美」ともいえるような、華麗な表現。
ロンドン中心部のハイストリート・ケンジントン近くにあった彼のアトリエ兼住居が、現在はミュージアムとして公開されている。絵画に劣らず華やかな内装を堪能しに行かねば・・・と思っている。


The Lament for Icarus, Herbert draper, 1898
The Lament for Icarus, Herbert Draper 「イカルス哀悼」 ハーバート・ドレイパー 1898年

レイトンやムーアより一世代遅れて登場した古典的画家、ドレイパー描く「転落したイカルス」。翼の美しさに目を惹かれる・・・。


The Two Crowns, Sir Frank Dicksee, 1900
The Two Crowns, Sir Frank Dicksee 「二つの冠」サー・フランク・ディクシー1900年

彼も一世代後のラファエル前派。華やかな描写に「地上の冠」と「天上の冠」の象徴を描くが・・・実は相反するものではなくて、コインの裏と表のように、光と影のように、同時に存在しえるものだと、私は捉えているのだけどな(笑)。

次回は同じく19世紀イギリス絵画からSargent(サージェント)のイメージを、Tate Britainからと、今年の夏Royal Academyで開催されていた"Sargent and The Sea"展のイメージとあわせて展覧予定。

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